「兄さんは俺のどこが好き?」
今日はいい天気だね、とでも言うかのように熱斗はそう呟いた。
僕と熱斗は今、ネットバトルの時に使うバトルチップの調整をしていた。二人揃って頭を捻りながらこのチップを入れたら攻撃力が上がっても機動力が下がるんじゃ無いか、それならこのサポートチップを一緒に使って戦うようにすれば良い、などと戦略を練りながらチップフォルダの見直しを行なっていて、色恋染みたことは何一つ話していなかった。
「え、今?そんなすぐに思いつかないよ……」
「いいから。言ってよ」
そう言って僕の目を見つめる熱斗は、バトルチップを選ぶ時みたいに真剣な顔をしていた。
何で今なんだろう。そんな雰囲気は無かったはずなのに、指先に当たったバトルチップがぎこちなく机の上から床に落ちた。
「……じゃあ、熱斗は僕のどこが好きなの?」
床に落ちたチップを拾う事もせず、僕は熱斗の質問に対して質問で返してしまった。僕に今すぐ言えなどと宣うのだから熱斗だってすぐ答えられるんだろ?という、僕なりの反抗だったのだ。
「んー……、今の顔とか?照れた時の兄さんの顔って、かわいいよね」
へ、と間抜けな声を上げてしまう。僕は今、そんな顔をしていたのだろうか?顔に熱が集まってくるのを感じる。
恥ずかしい、僕は今どんな顔をしていたんだろう?
「あと手を握ったときとかいっつも温かいじゃん。冬でも」
「冬は湯たんぽとか、カイロとか用意してるから……!」
それは体質であって好きなところには当てはまらないんじゃ無いかと思っても、熱斗の言葉は止まらない。
「色んな事に一生懸命なところとかすげーなって思うよ。オレ、ネットバトルなら好奇心湧くけど勉強にはさっぱりだし。算数の計算する時の兄さん楽しそうだよね」
「え、ええ……?」
「あと寝顔も可愛いよな〜、たまにツンって拗ねるところもイイし、目元もママに似てて美人だし。パパと似てるくせっ毛もかわいいし好き。ほかには……」
「も、もういいから!」
僕はいたたまれなくなって熱斗の口を手でふさぐ。なんでこんな恥ずかしいことを照れもせずにぺらぺらと話せるんだろう。僕には考えもつかない。
口を塞ぐ僕の手をやんわりと下させて、熱斗は楽しそうに話し始める。
「この前俺がうたたねしてる時にちゅーしてくれたのもうれしかった。何で起きてる時にやってくれないんだよ」
「なっ、え、お、起きてたの!?」
言わなくていいことまで言われてしまった。もっと強く口を押さえておくべきだったのかな。
というか、寝たふりをしていただなんて、熱斗は最低だ。
「ぼ、僕は熱斗のそういう意地悪なところ、大嫌いだから!」
そう言い残して僕は部屋から逃げるように飛び出す。立ち上がった表紙にバトルチップがばらばらと落ちたけれど、それを拾う余裕なんて無かった。
熱斗に拾わせたらいいんだ、起きててもわざわざ言わなければいいのにそんな事をするから。
今さっきついた嘘を、少しだけ後悔しながら階段を降りる。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲み、一息つく。
熱斗から謝って来なかったら、許してやらない。でも、熱斗が謝ってきたら、大嫌いなんて嘘だよって言わなきゃ。
そんなことを思いながら、ペットボトルのキャップを閉めた。
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