I love youの代わりに/熱ロク

「じゃあロックマン。このメール、やいとに届けてくれるか」
「うん、分かった」
熱斗が作成したメールのデータを受け取り、ロックマンは熱斗のパソコンとインターネットを繋ぐワープゾーンへ向かった。
熱斗のホームページからやいとのホームページまでそんなに時間はかからない。プロトを破壊しWWWによる世界征服の危機が去った今、秋原エリアに出現するウイルスの数や種類も減り、インターネットは束の間の平穏を取り戻していた。
そのはずなのだが。
「バリア200、スロットイン」
ロックマンがインターネットに足を踏み入れた直後、熱斗はロックマンにチップを転送した。周囲にウイルスの姿は見えず、仮に出てきたとしてもメットールやキャノーダムのようなウイルス達であり、ウイルスバスティングに慣れた熱斗とロックマンなら油断をしなければ簡単に処理できる。
「熱斗くん」
「ん?なんだよ」
宿題する手を止めて、熱斗はロックマンの方へちらりと視線を向けた。
「……ウイルスが出てきたら言うからさ、インターネットにボクが行くたびに防御系のチップ使うのやめない?」
「……やめない」
「こんなこと、いつまで続けるの?」
プロトとの戦いの後、ロックマンが熱斗のもとへ戻ってきてから一週間。ロックマンがインターネットへ足を踏み入れると熱斗は必ず防御系のチップを使用していた。
ロックマンが今までそばに居なかった反動なのだろうか。数日前に、何故こんなことをするのか聞いても、はぐらかされて不明瞭な答えしか返ってこなかった。
「……」
「ねぇ、熱斗くん」
「……不安なんだよ、ロックマンがまた、いなくなるんじゃないかって」
熱斗からの答えは、大方予想のついていた答えだった。
眉を顰めて辛そうな顔をする熱斗を見ても、いなくならないよと答えられないのが悔しかった。
自分はネットナビで、彼は人間だ。
またいつか、プロトと戦った時のような選択を迫られたとしたら、ロックマンはまた同じように熱斗だけが助かるように動くだろう。
熱斗には生きてほしかった。これは、自分のエゴだ。
「……俺だって分かってるんだよ、こんなの気休めだって。でも……、また、あの時みたいな気持ちになるのは、嫌だ」
「……熱斗くん。ボク、謝らないよ」
そう答えれば、大事な弟の表情が歪む。それでもロックマンは譲れなかった。
「熱斗くんがボクのことを大事に思ってくれるのは、とても嬉しいよ。
でも、あの時決断したこと間違ってたなんて思ってない。だから、謝れない」
「……強情」
「熱斗くんこそ」
じっと熱斗はロックマンを数秒ほど見つめて、深くため息をついた。
「俺さ、多分、ロックマンが死んだらきっと分かると思う」
射止めるように真っ直ぐな視線。歪む表情。自分を見つめる熱斗の瞳が、どこまでも眩しく思えた。
眉を顰めて、とても辛そうに見えるのに、怒っているようにも見える。
「熱斗くん。こわい顔、してる」
「……うん」
指摘したら、強張っていた表情がいくらか解れる。
悔しそうな顔をしている。けれど自分があの時彼を守らなければ、この顔はもう二度と見ることが出来なかったかもしれない。
「ボクも怖かったよ。でも……また熱斗くんと一緒にいられる。だから、もう怖くない」
ゆっくりと歩き始める。ウイルスも出ていないのにバリアを展開しているのは少し目立つけれど、プラグアウトしてPETに戻れば消えてしまう。それまでは、熱斗が自分のことを思ってくれている証を見に纏ったままインターネットを歩くのも、悪くはないかと思えてくる。
「熱斗くんと一緒にいると全部が綺麗に見えるんだ。だから、これからも一緒にいてもいい?」
「……いなかった分、たくさんこき使ってやるから覚悟しとけよ」
「あ、でも宿題は自分でやってね」
「ちぇー」
些細なやりとりが嬉しいのか、照れているような熱斗の声色を聞いてくすくすと笑う。
道を歩いていると、何かの作業をしているプログラムくんに二度見された。
やっぱり早くメールを送ったらすぐにプラグアウトしよう。ロックマンはやいとのホームページへと走り出した。


診断メーカーネタでした
愛してるって言えばいいのに

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