ジェラシー・チョコレート/ニゴチゴ

 キッチンに立って製菓用チョコレートを湯煎で溶かしている1号の姿を眺める。
今、1号はボクのためにバレンタインのお菓子作りをしてくれている。去年も1号からチョコケーキをもらったけど、今年はどんなお菓子を貰えるのだろう。楽しみで、上がってしまう口角を抑えることができない。
 ちなみに、ボクからはベタかもしれないが、またまた真っ赤な薔薇を送る事にした。ただし、今回は生花ではなくプリザーブドフラワー。1号にインテリアを贈れば1号は部屋のどこに飾るのか気になって、思わず購入してしまったのだ。
「そういえば1号、社内の人とかにお菓子を配ったりしないのか? お菓子作りのきっかけ自体はブラちゃんにねだられたからなんだろう?」
「頼まれれば作るかもしれないが……自発的に作ろうとは思わない。わたしが作りたいと思うのはおまえに渡す分だけだ」
 ゴムベラでチョコを溶かしながら、何気ない事を言うように1号が話す。その内容が嬉しくて、カウンターに頬杖をついていた姿勢を崩して前のめりになった。
「ボクだけ! ボクだけなんだな!?」
「だからそう言っているだろう。なんなんだ」
 ボクのためだけに作られるお菓子。そう言われて、喜ばないわけがない。1号の特別な存在だという事実が嬉しくて仕方がないのだから! 1号にとってはただの事実だから恥ずかしがる事もなくこんな事を言うんだ。そんなの、ボクだって浮かれもするし大袈裟に喜ぶ。ボクがとても喜んでいることが1号に伝わるように。
「だって、1号も考えてみろよ。ボクが社内の人たちにも花を贈って、そのうえで1号にも花を贈る。なんか、特別感無くてイヤじゃないか?」
「イヤ……?」
「えっ、もしかしてイヤじゃないのか!?」
 作業の手を止めて、1号が考えこむ。ボクは1号がボクの事を特別扱いしてくれるのが嬉しいけど、もしかしたら1号はそうじゃないのかも。スーパーヒーローは分け隔てなく皆に接するべきだ、とか言い出すかもしれない。
 だけどボクらはそもそも恋人という特別な存在であるはずだし、あとはヘド博士という創造主を特別扱いもしてる。分け隔てなく接することができるのも完璧なヒーローなのかもしれないけど、ボクはボクなりにスーパーヒーローであるわけだし。恋人を大切にするスーパーヒーローって、カッコいいんじゃないか?
「…………イヤ、かもしれない……」
「だろ!?」
「バレンタインの日におまえが他者に花を贈る様子をシミュレーションしてみたが……焦燥感が登ってきて、嫌悪感が湧いた。この感情の機敏から察するに、おまえが他者に花を贈るのをわたしは、イヤだと思う……はずだ……」
 そう言って、1号は恥ずかしそうにしながらぎこちない動きでお菓子作りの続きを始めた。1号の手が空くのってあと何分かかるんだろう。ボクのことで他人に対して嫉妬の感情を覚えた1号が可愛くて、愛おしくって、早く抱きしめたいけどボクのために料理してくれているのを邪魔したくない。
 ボクは相当困った顔をしていたのか、1号が手を伸ばしてきてボクの頬に優しく触れた。
「……嫌だったか?」
「そんな訳ない! 嬉しいに決まってるだろ」
 間髪入れずに答えれば、1号はまた恥ずかしそうな表情をする。我慢出来なくて、体を宙に浮かせてキスをした。ボクのために料理してくれるの嬉しいから出来るだけ邪魔せずに見ていたかったけど、でも、いいよな。だって1号からボクの方に手を伸ばしてきたんだから。
「っ、2号……」
「チョコ、すっごく楽しみにしてるからな」
 そう言って今度は1号の頬にキスをして、またカウンターに頬杖をついた。緩んだ口角を、自覚はしている。この後きっと、それを1号に指摘されるのだろうと思った。

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