ネバーランドに連れてって/リドフロ

狭いバスルームで一緒にシャワーを浴びて、タオルで体を拭く。折角脱いだのにまた服を着るのがめんどくさい、とフロイドはガウンだけを羽織って水を飲んでいる。
窓から差し込む日差しは少し陰っていて、もうすぐ夜になってしまうのをリドルは感じ、昼間から自分たちは何をしているのだと途端に恥ずかしくなってしまう。フロイドの首筋に付いた歯形が生々しくて、そっと目を逸らしたを
「金魚ちゃんも水、飲む?」
「……飲む」
はい、と手渡されたペットボトルはよく冷えていて、冷たい水が好きなフロイドが好みそうな温度だと思いながらも、湯上りで火照った体にはちょうど良かった。
く、と水を煽れば思っていたよりも水分を体が欲していたらしく、ペットボトルの半分まで飲み干してしまった。
あちー、と呟きながらガウンの首元をぱたぱたと煽ぎ風を入れようとするのが無性に愛らしくて、一緒に住んでなかったらこの光景は見れてないのかと考えながら、リドルは思わず口を開く。
「結婚しないか?」
「え、結婚?」
「あ」
思ったことが口からそのまま出てきてしまった。いいや、正確には違う。一緒に居たいと思った。そのはずだ。
確かにフロイドと一緒に居たいとは思っていたけど、結婚は些か突飛すぎやしないだろうか。
「そういえば人間ってずっと一緒に居る相手と結婚するんだっけ。しちゃう?結婚」
「え、いいのか?」
「いいのかって、金魚ちゃんから言い出したんじゃん」
でも金魚ちゃんこれから受験でしょ、結婚式とかしてる暇ないねぇ、とフロイドは何事もなく未来の話をする。
「……式を挙げなくても、籍を入れる事は出来るさ。いや、人魚と人間の結婚って、手続きどうなるんだ……?」
「調べれば出てくるんじゃねーの?」
フロイドがおもむろにスマートフォンを取り出し、検索をかけ始める。
何気なく体を寄せて覗き込めば、うわ、とフロイドは声を上げて驚いた。
「そんなに驚く事かい」
「いや、だってオレ金魚ちゃんの事超好きだし。今だって心臓の音やべーし。オレ、金魚ちゃんと一緒に居たいとは思ってたけど、流石に結婚は思いつかなかった。やっぱ金魚ちゃんってすごいね」
「え、いや……。は?ちょっと待ってくれフロイド。キミ、ボクの事が好きだったのか!?」
「うん。気付いてなかったの?」
「キミの気持ちなんか分かるわけがないだろう……!」
気分屋で、普段から考えが読めないフロイドの気持ちを想像しても大抵の場合予想もつかない結果になることがほとんどだった。
そんな風に考えていたからなのか、リドルはフロイドが自分に対してどう考えていたのか正しく理解していなかったのだ。
「ふーん、まあいいや。あ、手続きそんな手間じゃないらしいよ。オレの身分証明とか取り寄せたらいけるっぽい」
「いや他にも必要なものはあるだろう、きちんと読んだのかい?」
フロイドが手に持つスマートフォンを、リドルがもう一度覗き込む。表示された文章を読もうとするのに、先ほどフロイドに言われた事が気になって集中できない。だんだんと頬が熱を持っていく。
「金魚ちゃん、顔真っ赤」
「……後で見ようか。うん、その方がいい」
机の上に置きっぱなしにしてあるペットボトルを手に取り、残った水を煽る。さっきまであんなに冷たかったのにぬるく温度を上げた水に、何故だか苛立ちを覚えた。

コメント