どこの学校にも、特有の暗黙の了解がある事は珍しくない。旧校舎には上級生しか入ってはいけないだとか、図書館の一角は恋人同士の逢引で使われる事が多いだとか。
ナイトレイブンカレッジも例に漏れず、こまごまとした学園内独自の文化がある。
――例えば、恋人となった二人は、そのしるしにネクタイを交換し合うだとか。
△
「あれフロイド先輩、今日はネクタイしてるんですね」
「んあ?」
バスケ部の更衣室。エースは体育館の近くで同じバスケ部に所属しているフロイドに声をかけられ、今日の練習メニューの話をしながら更衣室の扉を開けた。
鞄を置いて、運動着に着替えるために脱いだブレザーを掛ける為にロッカーからハンガーを取り出す。その時にフロイドの首元からちらりと見えた、白と黒のネクタイ。だらしなく緩められたシャツの首元へ無造作に引っ掛けられたネクタイが珍しかった。
普段はシャツのボタンをきちんと留めるどころかネクタイを首に通しもせず、トレイン先生から度々注意を受けているらしいことは知っている。なんならその近くで駄弁っていたらお前もボタンをきちんと留めろと言われたからだ。
「あ〜、なんかそういう気分だったから?でもやっぱ邪魔だよねこれ」
「いやまあ、制服なんで邪魔とかそういう話じゃないような……」
フロイドは人魚だという話だし、首元まできちんと着込むというのは窮屈なのかもしれない。
無造作にハンガーへとネクタイが掛けられる。邪魔だと言っていたからもっとぞんざいに扱うのかと思ったが、シワが付くのが嫌な気分とかだったのかも、と思いながらエースは着替えを続ける。
フロイドのネクタイに見慣れた王冠のチャームが着いていたが、どこで見たか思い出せず首を捻っていればフロイドから声を掛けられる。もう着替え終わったらしい。
「オレ先行っとくねぇ〜」
運動靴をキュ、と鳴らしながらフロイドが更衣室を出て行く後姿を見つめながらエースはううんと唸る。
絶対あのチャームどこかで見たことあるはずなのに、と思っていたらフロイドが使っているロッカーの扉が僅かに開いているのに気付く。更衣室の灯りを反射して、チャームがキラリと光った。
「絶対にどっかで見たことあるわコレ……どこだ……?」
いけないことだと思いながら、もっと近くで見たら分かるかも、とネクタイへと手を伸ばせばするりとネクタイは床へと落ちた。
慌てて拾えば、ネクタイの裏に印字されている名前に目がいって、ああ、それは見覚えがあるだろうと気づいた。
中央にハートを携えた王冠のチャームなど、どうしようもないほどにハーツラビュルを主張していると言うのに。
「……へぇ〜あの二人って、そういう」
リドル・ローズハートと印字されてあるネクタイを元通りになるようハンガーへと掛けて、運動靴へと履き替える。
「いや匂わせとかキッツいわ〜……」
もう部活とかサボりたい。そんなことを思いながらも時計は進むし、顧問の先生から集合の号令がかかった。
コメント