なんてむなしい/リドフロ

※産卵

朝、起きたら腹に違和感があった。そして、またかと考えてため息を吐く。これで何度目かな、と思いながら隣の部屋で学校に行く準備をしているだろうジェイドに声を掛けに行く。
産気づいたから、今日は休むと。

今は薬の力を借りて人間と変わりない見た目をしているが、フロイドはウツボの人魚である。本来の体長は実に人間より一回り以上大きく、服を身に纏っていなくても海の中で生活ができる。
人間化の薬を飲んでも、完全な人間になるわけじゃない。陸を歩ける足が出来て、肺呼吸が出来る様になる程度のものだ。
完全に人間になる薬もあるらしいけれど、余程魔法の技量を持った人物で無ければ精製出来ず、かつ薬の素材も希少なものが多い。
優秀なアズールでもまだ作れないのだと溢していたから、かつてそれを作り出したと言う海の魔女は本当にすごい人物だったのだろう。
産気づいたからとジェイドに伝えれば、またですかと苦笑された。フロイドの中に卵が出来ている。それは本当だった。けれどこれは所謂無精卵というもので、卵の中に稚魚はいない。
フロイドは恋人であるリドル・ローズハートと性交をし始めてから、度々無精卵を産卵していた。

「はあ、だる」
いくら中に稚魚がいないからと言っても、産卵するのにはそこそこ体力を使う。それこそ全力疾走した時と同等か、それ以上の疲労と共にやってくる虚しさ。
フロイドは人魚だが、男だからいくら精を注がれても孕むことはできない。それなのに、リドルへと拓かれた身体は何を勘違いしているのか知らないが卵を作り、体外へ排出しようとする。
ウツボの卵の味なんて食べたことが無いから知らないが、次に産卵してしまったら調理してリドルに食べさせてやろう、とフロイドはベッドで横になりながら考えた。

約一か月後、リドルがお腹を壊して三日ほど部屋に篭ることになるのは、また別の話。

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