ガン、とポッドが何かにぶつかったような音と振動で目を覚ます。何だろう、と思いながら2号がポッドの扉を開ければ、ポッドの淵にガンッと鈍い音を鳴らしながら足で蹴って、2号がポッドから出てくるのを阻んだ。2号の目の前に立っていたのは、腕を組んで眉間に皺を寄せ凄まじい形相で睨みつけてくる1号の姿。
そこで2号は、昨晩のアクセスログを消し忘れた事に気付いた。
「何か言う事は?」
「勝手に頭の中見てゴメンナサイ」
「ロックかけてるのも見てたな」
1号の頬が赤くなっている。やはり見られたくなかったのだろう。こんなに取り乱しているのも珍しい。
「え〜?どうだったかなぁ〜……」
「惚けても無駄だぞ、ログにキッチリ残っているからな」
誤魔化すことは難しいらしい。2号は観念したように両手を上げた。
「本当にゴメン、好奇心で見ちゃった。アクセス出来るのかな〜って思ってやってみたら出来ちゃって」
「プライバシーの配慮というものを覚えた方が良いんじゃないか」
「いや、本当にごめん。反省してる」
好奇心が先行したが、自分が勝手に頭の中を見られるとしたら確かに嫌な感情になる。浅慮な行動だったと、2号は反省していた。
「……今後は慎むように」
「うん。ごめんね」
そこまで言って、1号は足を下ろした。一先ず怒りは落ち着いたかなと、2号は内心胸を撫で下ろした。
「ところでさ、ボクへの好きって、どういう感情なの」
「……どういう、とは」
「その、あるじゃん。ラブとかライクとか、そういうの。もしかして、ラブの方?」
愚直なまでに真っ直ぐな1号は、嘘をつくのが下手だ。どう思っているのか素直に伝えてくれるはずだ。
「……」
1号は喋らない。顔を真っ赤にして、黙ったままでいる。
もしや、フリーズしているのか?と思い、2号は1号の前で手を振ると、ハッとしたように1号が動く。どうやら一瞬フリーズしていたらしかった。
なんだそれ。可愛い。
「……そうだ」
顔を真っ赤にしながら2号の目を見つめて、1号は肯定する。その姿を見て、2号は形容し難い感情に襲われた。愛らしい。可愛らしい。守りたい。
1号も紛う事なきスーパーヒーローであるはずなのに、守りたいとは。
「不快に思わせたならすまない。だが、見つからないように隠していたんだ。お前に伝えるつもりはなかった。……暴かれてしまったがな」
「ち、違う、全然不快じゃなかった!びっくりはしたけど……」
「不快では無かったのか?」
「むしろなんか……そんな1号を、可愛いって思った。おかしい?」
2号の顔も段々と赤くなっていく。二人して顔を真っ赤にして向かい合って黙りこくる。
「……えぇと、その。じゃあ、好きでいても構わないか?」
「え、良いっていうか、付き合うとかじゃないの?」
「え?」
「ボク達って両思いってやつでしょ。お付き合いっていうの、してみようよ」
2号は恥ずかしくて、1号の顔を見れない。目を逸らしていれば、1号に顔を覗き込まれた。
「……よろしく、頼む」
真っ直ぐにこちらを見つめてくる1号の瞳が、あまりに綺麗で。
「……うん」
心臓のように動くポンプが過剰に稼働してうるさい。こんなのは初めてだ。
「だが、それとこれとは話が別だ。人の人工知能に勝手にアクセスするな。せめて一言断ってからにしろ」
「……ハイ」
コメント